電車に乗るとき、その裏側でどれくらいの電力が使われているか、考えたことはありますか? 今回は、身近な山手線と日本の大動脈である東海道新幹線の消費電力を比較しながら、実は鉄道がどれほどエコな乗り物なのかを探っていきます。
山手線の消費電力と一周あたりの電気代
東京の都心をぐるりと回る山手線。非常に高頻度で運行されており、たくさんの乗客を運んでいます。そんな山手線の電車1編成が一周するのに必要な電力量は、おおよそ310kWhから320kWh程度です。
電車と費用 |
では、気になる電気代はいくらになるのでしょうか? JR東日本のような鉄道会社は、一般的な家庭よりも安い電力料金で契約していますが、仮に1kWhあたり19円で計算すると、山手線1編成が一周する電気代は約6,000円弱になります。
これを聞くと「意外と安いな」と感じるかもしれません。しかし、これは電気代のみの話。実際には、運転士や駅員の人件費、線路や駅の維持管理費、車両の製造・修繕費など、莫大な費用がかかっています。それでも、通勤ラッシュ時には1編成に2,000人近い乗客が乗る山手線は、1人あたりの電気代で考えるとたったの数円と、非常に効率的な交通手段であると言えます。
山手線とは桁違い! 東海道新幹線の消費電力
山手線と比べて、東海道新幹線が消費する電力はまさに「桁違い」です。N700系新幹線の場合、時速300kmでの走行時に必要な連続定格出力は1編成あたり1.7万kWにもなります。さらに、東海道新幹線全体でピーク時に消費する電力は約55万kWにも及ぶとされています。
これは、日本の大規模な火力発電所の発電機1つ分に匹敵するほどの電力です。山手線の年間平均消費電力が約570kWであることを考えると、瞬間的な電力消費ではありますが、新幹線は山手線の約1,000倍もの電力を消費していることになります。
この大きな差は、主に以下の要因によるものです。
圧倒的な速度: 時速285km(N700Sの場合)という高速で走行するため、速度の2乗に比例して増大する空気抵抗が非常に大きくなります。
車両の規模と重量: 山手線が11両編成なのに対し、新幹線は16両編成と長く、車両自体の重量もはるかに重いため、動かすエネルギーが大きくなります。
輸送目的: 都市内輸送の山手線に対し、新幹線は都市間を結ぶ高速大量輸送を担うため、より強力なモーターと大出力が必要です。
このように、新幹線は山手線とは比べ物にならないほどのエネルギーを必要としますが、その分、膨大な人やモノを素早く、遠くまで運ぶという重要な役割を果たしています。
電気自動車より電気鉄道が断然エコである理由
最近よく「電気自動車(EV)はエコ」と言われますが、実は電気鉄道(電車)のほうが、多くの点でEVよりもはるかにエコであると言えます。
圧倒的な輸送効率: EVは基本的に1人から数人での移動が主ですが、電車は一度に数百人、数千人もの乗客を運びます。このため、1人あたりのエネルギー消費量やCO2排出量は、電車の方が圧倒的に少ないです。
効率的なエネルギー供給: 電車は架線やレールから直接電力が供給されるため、充電スタンドのような個別設備が不要で、送電ロスが少ないです。また、ブレーキ時に発電する回生電力を、同じ区間を走る別の電車が加速する際にすぐに利用できるなど、システム全体でのエネルギー効率が非常に高いです。近くに消費する電車がいない場合に回生電力が使われない「回生失効」という現象もありますが、鉄道会社はダイヤ調整や地上設備(蓄電池など)の導入で対策を進めています。
長い車両寿命と資源利用: 鉄道車両は非常に頑丈に作られており、30年~40年と長く使われます。これにより、製造時にかかる環境負荷を長期間で分散できます。EVのバッテリー寿命や買い替えサイクルと比較すると、この点でも鉄道は有利です。
土地利用の効率性: 電車は専用の線路が必要ですが、一度敷設されれば高密度で大量輸送が可能です。一方、EVは広大な道路網だけでなく、無数の駐車場スペースも必要とし、土地利用の効率性で劣ります。
もちろん、EVもガソリン車に比べれば環境負荷は大幅に低いですが、「1人あたりの輸送効率」という観点や、システム全体のエネルギー管理という視点で見ると、電車こそが最も環境に優しい交通手段の一つであると言えるでしょう。
鉄道の技術者たちは、空気抵抗の削減や回生電力の活用など、日々省エネルギー化のための研究開発を続けています。私たちが何気なく利用している電車は、日本の環境負荷低減に大きく貢献している、まさに「エコ」な乗り物なのです。